こんにちは、詩の郷です。
障がいのある方の中には、本人の何気ない行動が、周囲には“犯罪”として受け止められてしまう方がいます。
その背景には、特性や環境とのミスマッチ、適切な支援の不在など、さまざまな要因が絡み合っています。
◇「犯罪」とされる行動の背景には、特性や環境の影響がある
表面的には“犯罪”とされるような行動であっても、その裏には不安、理解の難しさ、感覚の過敏さや鈍さといった特性が影響しています。たとえ悪意のない行動であっても、本人の意図とは無関係に、社会的に“犯罪”として扱われてしまうことも少なくありません。
◇誤解されないために、誤解を生まないために
「どうして犯罪として扱われてしまったのか」「どうすれば防げたのか」を考えていくことが、誤解を減らし、安心して過ごせる毎日につながっていきます。
以下に、特性や状況によって“誤解を招くことがある行動”の一例をご紹介します。それぞれの行動には、その人なりの理由や背景があり、合う支援の形も一人ひとり違います。
【発達障がいのある方の例】
・好意の伝え方が誤解を招くことがある
ユウタさん(仮名・20代)は、職場で気になる同僚に繰り返し話しかけたり、SNSで何度もメッセージを送っていました。
本人は「もっと仲良くなりたい」という思いからでしたが、相手からは「しつこい」「怖い」と受け取られ、会社に相談されることになってしまいました。
・距離感をつかむのが苦手な特性
「相手がどう思っているか」「今は話しかけてよいか」といった空気を読むのが苦手で、特定の人に強い関心をもつことがあります。
「自分なりのルールで動く」といった傾向があるため、その思いの強さがズレを生み、誤解を招いてしまうことがあります。
・受け取り方によっては「ストーカー行為」とされることも
好意からの行動でも、相手が不安を感じると「ストーカー行為」と受け取られ、注意を受けたり、法的対応につながることもあります。
→関わり方の工夫で、安心できる距離感を保つ
- 相手がどう感じるかを考える習慣をもつ
- 連絡の頻度やタイミングについて、ルールを決めておく
- 困ったときに相談できる人を決めておく
【知的障がいのある方の例】
・お金を払わずに商品を持ち帰る
ミホさん(仮名・20代)は、作業所の帰りにスーパーに立ち寄り、ジュースを手にしてそのまま店を出ようとしました。
「忘れてただけ」と本人は言いますが、何度か似たようなことがあり、店から注意を受けるようになりました。
・お金のやりとりや社会的ルールの理解が難しい特性
ミホさんには軽度の知的障がいがあり、「お金を払う」という仕組みや、「商品はレジを通さなければならない」という社会的ルールの理解が不十分なまま、行動に移してしまうことがあります。
・放っておくと「万引き」として扱われるおそれも
意図がなかったとしても、売り物を勝手に持ち帰ると、「万引き」とみなされ、警察対応やトラブルにつながる可能性があります。
→買い物の流れを理解しやすくする工夫
- レジで支払ってから商品を受け取る流れを、イラストや写真で確認する
- 買い物のときは、信頼できる人と行動する
- 日常生活の中で、お金の使い方を練習する
【精神障がいのある方の例】
・被害的な妄想から他人に怒鳴る
ユウジさん(仮名・40代)は、ある日、公園のベンチに座っていた見知らぬ男性に「お前、見てただろう」と怒鳴りつけてしまいました。
そのとき本人は、「誰かに監視されている」と強く感じていたのです。
・現実と妄想の区別がつきにくい特性
ユウジさんは統合失調症の診断を受けており、調子が不安定なときには幻聴や被害妄想といった症状があらわれます。
その状態で対人場面に入ると、現実と妄想の境界が分からなくなり、相手に対して攻撃的な言動が出ることがあります。
・放っておくと「脅迫」として通報されるおそれも
怒鳴った相手が恐怖を感じた場合、「脅迫」として通報されたり、警察対応に発展することもあります。
体調不良がもとでも、対応を誤ると事件化してしまうおそれがあります。
→体調が不安定なときの過ごし方を考えておく
- 服薬や体調の確認を意識しておく
- 不安が強いときは無理せず外出を控える
- 落ち着ける場所へ移動して、信頼できる人に相談する
【グレーゾーンの方の例】
・ネット上で不適切な書き込みをしてしまう
ショウタさん(仮名・20代)は、インターネット掲示板に「爆弾を仕掛けた」と冗談まじりに書き込んでしまいました。
本人は「ただのネタだった」と話していますが、警察が動く事態に発展してしまいました。
・言葉の重みや影響を想像しにくい特性
ショウタさんには、発達障がいの傾向と境界知能の状態があり、相手の受け取り方を想像することや、社会的に適切な表現との区別が難しいことがあります。
・放っておくと「威力業務妨害」などで通報されることも
「冗談」のつもりでも、脅迫的な書き込みは重大な事件として扱われ、警察の介入や法的責任を問われることがあります。
→ネットの使い方を安心できる形に整える
- 書き込む前に一度、誰かに見てもらう
- 「どう見えるか」を考える習慣をつくる
- ルールを紙に書いて、目につく場所に置いておく
◇“悪意があるように見える行動”にこそ、支援が必要なときがある
「なんでそんなことをしたの?」「わざと?」と問いかけられるような行動もあります。
しかし、自分でもうまく言えない気持ちや、人とうまく関われなかったもどかしさがあって、どうしたらよいか分からなくなるのです。
どうしてそうなったのかを一緒に考えてくれる人がいれば、少しずつ気持ちも落ち着いて、行動も変えていけるようになるでしょう。
◇詩の郷では、日常の中で「兆し」に気づける関係を大切にしています
詩の郷では、入居者さんのちょっとした変化や違和感に気づき、「いつもと違う」と思ったときには、できるだけ早く声をかけます。
行動だけを見て判断せず、「なぜその行動に至ったのか」「今、どんな気持ちでいるのか」を一緒に探っていく関係を、大切にしています。