こんにちは、鹿児島市荒田にある障がい者グループホーム「詩の郷」です。
「工賃だけで生活できるのかな…?」そんな心配の声をよく耳にします。実際、相談の場で多くのご家族や入居者さんから寄せられる質問のひとつです。地域や制度の状況によって事情は異なりますが、今回はB型事業所の工賃と実際にかかる生活費を比べながら、その差をどう支えていくのかを一緒に考えてみたいと思います。
◇B型事業所の工賃データから見る現状
就労継続支援B型事業所は、障がいのある方が自分のペースで働きながら、工賃という形で収入を得られる場です。軽作業やものづくり、清掃業務など、事業所ごとにさまざまな仕事がありますが、一般就労と違って雇用契約を結ぶわけではなく、支援を受けながら働くスタイルになります。そのため得られる収入は“賃金”ではなく“工賃”と呼ばれています。障がいのある入居者さんが通うこうしたB型事業所の工賃は、次のようになっています。
- 全国平均(令和5年度):月額23,053円
- 鹿児島県平均(令和5年度):月額26,352円
なお、この金額は「工賃の集計方法が変更された」影響で前年より高く見えている部分もあります。対象となる利用者の範囲が広がったり、日額や時給のデータを月額に換算する方法に整理し直したりしたためです。工賃は全国的にも月2〜3万円程度にとどまっており、工賃だけで生活費をまかなうのはやはり厳しい状況です。
◇収入パターン別の目安(A型/B型/一般就労)
入居者さんの働き方によって、手元に入るお金や利用できる制度が変わります。ここでは収入のパターンを3つに分けて、ざっくりとした目安を示します(具体的な金額・基準は自治体や働き方で異なります)。
- B型(工賃収入):支援を受けながら働き、少額の工賃を得る形態です。
- 収入例:平均は月2〜3万円程度
- 制度:非課税世帯に該当しやすく、家賃の補足給付(上限1万円)の対象になることが多い
- 生活:生活費6〜7万円のうち不足分は、障害年金などと組み合わせて補うケースが一般的
- A型(雇用契約ありの給与):雇用契約を結び、最低賃金以上の給与が得られる形態です。
- 収入例:地域の最低賃金以上の時給で、勤務時間により収入は変動
- 制度:収入が増えると非課税から外れて家賃補足給付の対象外になる場合がある
- 注意点:自己負担が増える可能性があり、自治体により取扱いが異なる
- 一般就労(パート・フルタイム等):一般企業などで働き、安定した収入が得られる形態です。
- 収入例:勤務条件に応じて幅広い
- 制度:多くの場合は家賃補足給付の対象外
- 生活:収入は安定しやすい一方、家賃や光熱費などの自己負担が増えるため、家計の見通しを立てて管理することが大切
◇グループホームで必要となる生活費の実例
詩の郷のホームページでも、実際の生活に必要な費用の目安を紹介しています。入居を検討される方にとって、毎月どのくらいの費用が必要になるのかをイメージする参考になります。
- 敷金:0円
- 家賃(家賃補助適用後):21,600円〜27,000円
- 食費(朝夕食・土日祝を含む):28,500円
- 共同ルーム維持費:2,500円
- 水道光熱費:個別契約で実費
- 福祉サービス利用料の自己負担
- レクリエーション費(参加時のみ実費)
- 町会費や日用品費など
これらを合計すると、毎月6〜7万円前後の出費となるのが現実です。数字で見ると大きな負担に感じられますが、実際には多くのグループホームが費用の目安を明確に示し、利用を考える方が安心して判断できるよう配慮しています。
◇工賃と生活費を比べて見えてくる課題
鹿児島県の平均工賃と実際の生活費の目安を比べると、次のような差が見えてきます。
- 鹿児島県平均工賃:26,352円
- 実際の生活費:約60,000〜70,000円
生活費は工賃の約2〜3倍となり、工賃だけではとても足りません。入居者さんやご家族が不安を抱くのも自然なことです。この差額をどう埋めるかが、日々の暮らしを安定させる大きな課題になります。
◇制度で支える生活の安心
工賃だけでは生活費をまかなえないため、制度の支えが必要です。制度を利用することで生活が成り立っているのが現状です。そこで、工賃だけでは足りない分を補う仕組みとして、次のような制度があります。
- 障害年金:障がいの状態に応じて支給される年金で、生活の基盤になります。
- 生活保護:収入が少ない場合に、生活全般を支える制度です。
- 家賃補足給付(最大1万円):条件を満たした場合に、家賃の一部を補助してくれる仕組みです。ただし、年収が約150万円以上ある利用者は対象外となり、負担額が最大約32,000円になることもあります。なお、この基準や金額は自治体ごとに異なるため、詳細は各自治体での確認が必要です。
障害年金や生活保護を利用している方も多く、さらに条件を満たせば家賃の補足給付が受けられる場合もあります。こうした仕組みをうまく活用しながら、工賃だけでは届かない生活費を補い、安心した暮らしにつなげることができます。
◇詩の郷が大切にしている暮らしのサポート
詩の郷では、入居者さんが安心して毎日を送れるように、生活支援員がそっと寄り添いながら家事や健康のサポートをしています。就労支援事業所ともつながり、無理のないペースで自立へ向かえるよう一緒に歩んでいます。入居時の水道光熱費の契約もお手伝いし、費用についても分かりやすく説明するなど、安心できる工夫を欠かしません。工賃だけでは足りない現実があるからこそ、制度や支援を組み合わせて、「安心して暮らしたい」という気持ちを支えていくことが、これからも私たち詩の郷の役割です。


